わたしは岸惠子
その日は白いTシャツ、ジーンズのいでたちであった。会社の洗面所で手を洗い、ふと鏡に映った自分のうしろ姿を見て、なんとまあ、三条史郎さんの背中にくりそつ! と驚愕するJガールであった。よっしゃ、いよいよ俺の季節がやってきたでえ〜、祭り囃子に血潮も騒ぐ、櫓太鼓は俺にまかせとけ〜、それっ、トゥリャトゥリャトゥリャトゥリャトゥリャトゥリャ(のみっさん)……てば、わたしったら太鼓打ちの史郎じゃないざますってよッ。大きく広い背中、がっしりした体躯は太鼓の天才・三条史郎さんにはこれ以上ないといえる理想的なお姿だが、なんの芸もないJガールがこないに背中がだだっ広くてどうする。考えたくないけ
ど、ひょっとして太ったかしらん。うそよ、うそうそよとつぶやきながら廊下を歩いていると、H先輩と出くわす。H先輩が開口一番「じぶん、また元に戻ったなあ。また肥えたやろ」とおっしゃるので衝撃でかたまっていると、追い討ちをかけるように「それって、せっかく貯金したのに、いつのまにかお金を全部使い果たしてしまったような気持ちやろ。わはははは」と豪快に笑いながら立ち去っていかれた。
まさか、まさか、なのである。家に帰ってから、ひさしぶりに体重 計に乗ってみる。おそるおそる乗ったのだが、体重計がおそるべき数値をあらわしたとき、ショックで倒れそうになる。何かの間違いに違いないと今度はさらにそろ〜っと乗ってみたり、普通に乗ってみたり、ドスンと乗ってみたり、いろいろと試してみたのであるが、何度乗っても同じ数値。にゃ、にゃんと4キロも体重増加である。がーん。翌朝、気に入りの鯉のぼり柄のワンピースを着ていこうとベルトをしめたときも、なぜかベルトが届かない。きつい。やっとスナップを留めても、姿勢を変えるとポーンとはじけてしまうほどだ。このワンピースを着たのは、シネ・ヌーヴォで田中徳三監督の追悼映画祭があった2月以来のことである。あの頃はまだすんなり着ることができたのだ。ということは、この二か月あまりで4キロも肥えてしまったということざんすね、そんなばかな〜、こまったこまったこまどり姉妹、しまったしまった島倉千代子、永遠のJガールのあほんだらあほんだらあほんだら〜!である。(写真は二か月前のまだましな頃)
それから数日はおしゃれする気もまったく失せて、同じ服を三日続けて着るだらしなさ。堕落の一途をたどっていたのだが、ふと妙案を思い出してにんまりする。そうよ、そうだわ、あの作戦を挙行したらいいざんすよ! とわれながらグッドなアイデアにおもわず膝を打つ。その作戦とは名付けて「わたしは岸惠子」作戦である。実は4年前に初めてパリに行ったときに、パリのひとびとから冷遇されてしまった悲しい経験をふまえ、反省した結果、原因は私自身にあったと結論を出したのだ。だらしない格好をして、だらしない姿勢でパリの街をおどおど歩く日本の中年女を、誰が優しい目で見てくれるであろうか、と大いに学習したのであった。なので、昨年12月にパリを再訪したときは、その反省点をふまえ、同じ轍を踏まぬよう、考え出したのが「わたしは岸惠子」作戦である。パリに滞在しているあいだ、「私は岸惠子」と思いこんで、すべての行動基準を「岸惠子さんだったらどうするか」とあてはめて、岸惠子さんになりきってみたのである。当然、朝からフルメークで髪もカーラーで巻いたし、昼と夜は衣装もチェンジしたし、できるだけハイヒールもはいた。外見だけでなく、気持ちも「岸惠子」であったので、どんなハイソな場所にも気後れせず堂々と出向いたし、街を歩いているときも手慣れた雰囲気で早足で歩いてみた。岸惠子だから、高級レストランで食事して、ハイヤーに乗って、ブランド品を買う、という意味ではない。パリに長年住んでおられる岸惠子さんだからこそ、食材は自分で購入しておいしく食事をすませ、歩いていけるところはさっさと歩かれ、地下鉄やバスにもどんどんお乗りになり、欲しいものは適正価格のものを厳選してお買いになり、美しいものをどんどん引き寄せていくおかたであると確信していたのである。当然、日本人コンプレックスなどは微塵もなく、理不尽な仕打ちを受けたときは毅然たる態度で立ちむかっていかれるだろうし、異国の地でさらに磨かれていった美貌と強さとしなやかさは、言葉が通じない外国においても一目置かれることは間違いないのである。
そう考え、いつもにこやか、優雅に毅然とふるまう岸惠子さん
を演じてみたJガールであったのだが、これが想像以上にうまくいったのである。「わたしは岸惠子」という気持ちを念頭に置いて、すべての行動を彼女に置き換えてみると、「ボンジュール」「ボンソワール」「ムッシュー」「マダーム」「メルシー」の5つの言葉しかしゃべることができないにもかかわらず、先回りしてこちらの意を汲んでいただいたり、たいへん丁重にあたたかく扱っていただき、いやな思いは何ひとつなく、快適で楽しい奇跡のような4日間であった。(写真は岸惠子さんのお住いがあるサン・ルイ島。もしや岸惠子さんとばったりお目にかかることができたらぜひお礼が言いたくて、お茶をごちそうさせていただこうとなぜか20ユーロ札を握りしめながら歩いた)。
そんなにうまくいった「わたしは岸惠子」作戦なのだから、パリだけではなく日本における生活態度にも適用したらいいジャアないか君、と考えた次第である。岸惠子さんなら、コンビニで買ったおにぎりを一分間で2個早食いなさることはないだろうし、チキンラーメンを生でバリバリとかじることもないだろうし、布団を万年床にすることもありえないだろうし(どんな生活態度やねんな)、とにかく美しい生活となり、ダイエットにも有効そうである。かならずや痩せそうだ。ついでに給料もあがりそうだ。そんなこんなで私は今、ふたたび岸惠子さんになりきっているのでざます。そういえば、萩原健一さんの著書『ショーケン』では、岸惠子さんのずいぶんアバンギャルドな一面も紹介されていたが、あれは上級篇。わたしにはまだ早い。
笑!面白いHPですね〜♪
いやはや、私もまさに!最近妙に体重が増えてしまいっ
同じようにそろりと体重計にのってみたりしています〜っ!
Jガールさんを見習って、「わたしは岸恵子」作戦で参りたいと思いますっっっ!!!
投稿: まゆみ | 2008年6月 9日 (月) 20:58
●まゆみ様
「わたしは岸惠子」作戦を挙行するため、岸惠子さんの著書をもう一度読んで勉強しようと思ったら……実家の母がねこそぎ持っていってしまってました。
知らんかったのですが、うちの母も大ファンだったようで、これもDNAのなせるわざだとちょっと笑ってしまいました。
投稿: 永遠のJガール | 2008年6月15日 (日) 10:38
料理教室に来いや〜(笑)料理は簡単、すぐ出来る!がんばれ岸恵子(古〜!)
投稿: 匿名希望 | 2008年6月15日 (日) 21:16
●匿名希望様
そ、そうざますね。料理は簡単…愛あればこそ、不可能はないわけで。もう少しお待ちください。必ずチャレンジします。
投稿: 永遠のJガール | 2008年6月15日 (日) 23:46